monthly Manga Review
「AI止ま」とは? 勉強も運動もダメ。背も低いしみてくれもイマイチ。そしてドジで助平。もてない男の典型「神戸ひとし」。しかし、彼には誰にも負けない特技があった。それはプログラム。そんな彼が作り出したのが、自己学習機能を備えた人工知能(AI)による「理想の女の子」。名前は「プログラムNo.30(サーティー)」。だが、ある日、落雷の衝撃によりプログラムが実体化してしまったのだ! 正体を隠しながらの危なっかしい…でも、モテモテな生活が始まった。様々な誤解とトラブルの連続で、もうどうにも止まらない、ちょっとHなドタバタコメディ。それが「AI止ま」です。 いくら実体化したといってもプログラムされていないことは何も分からない。だが、次第に学習効果によって人間へと近づいていくサーティーと、自分に自信が持てるようになってきたひとし… だが、それは二人に決定的な現実を思い知らせることになる。ひとしに人間の彼女が出来た時…自分はプログラムなんだ…いつまでも一緒にいられるわけじゃないんだと… ふたりは人間とプログラムの壁を越えられるのか? 「おたく」が描いた「おたくの夢」 ダメダメな主人公が女の子に囲まれてモテモテに…というのは典型的な「おたく」的発想です。そういう願望は健全な青少年なら誰しも少なからず持っているものなんですが、公言するのは社会的に憚られるものです。漫画やアニメにこの手の文法が非常に多いのは、せめてそういう欲求を物語の中でもいいから満たしたい、という需要があるからなのです。 作者:赤松健氏も、典型的な「おたく」ですが、結構リアリストで計算高い面もあります。硬派のイメージの強かった当時のマガジンに敢えて「おたく全開」なジャンルを投稿したり、プログラマーに見切りをつけて漫画家になったり。そんな氏が描く世界は「おたく」の願望を叶えつつも、そこからの成長というものに主眼が置かれている。成長とは、旅立ちであり別れでもある。それを乗り越えて初めて夢は夢でなくなるのだから。でも、現実は夢の続きでもある。夢は終わらない。そこに現実がある限り… そして「ラブひな」へ… 赤松健という漫画家の名前が全国区になったのは、「AI止ま」の後継作「ラブひな」からです。かくいう私も、赤松作品を始めて知ったのは「ラブひな」の連載第一回を週刊少年マガジンで読んだ時でした。「ラブひな」はアニメ&ゲーム化もされ、単行本は1000万部突破、ついには講談社漫画大賞を受賞してしまいました。その「ラブひな」ヒットの要因は、すでに「AI止ま」時代に形成されていたのです。ドジでスケベな主人公、どんな趣味の人間でもはまるツボを抑えたキャラクター、大げさな擬音とボケとツッコミ… 着実な進化の先にあったのが「ラブひな」であると再確認することができます。「ラブひな」で初めて赤松ワールドにはまった人は、是非「AI止ま」の方も読んで欲しいですね。
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